Dec. 28, 2012

制作者インタビュー「androp “Bell” music video game」

独自ツールを開発しながら生み出した、
インタラクティブMV制作の裏側

ロックバンドandropの楽曲「Bell」のインタラクティブミュージックビデオゲーム(2011年公開)は、ユーザーの入力する文字が動物のキャラクターとなり、それをユーザーが操作して進めていくWebコンテンツだ。このプロジェクトを成功に導いた「専用ツール」の存在を中心に、前後編の2回に分けて制作スタッフに話を聞いた。

http://www.androp.jp/bell/

取材・文:遠藤義浩

前編「世の中に出たことのない、新しいミュージックビデオをつくりたい」

後編「制作のための専用ツールを膨大に開発し、難所を克服する」

前編「世の中に出たことのない、新しいミュージックビデオをつくりたい」

2011年9月、ワーナーミュージックジャパンからメジャーデビューを控えたロック・バンドandropは、2曲のミュージックビデオ(MV)の制作をクリエイティブラボ・PARTYへ依頼する。MV制作の担当となった川村真司氏と清水幹太氏は、2曲のうちの1曲「Bell」をインタラクティブMVにしたいと考え、かつてMV制作などで苦楽を共にしたAID-DCCの3名を指名するに至る。

「楽しいお仕事」の真相

androp
── まずはAID-DCCがandrop「Bell」にかかわる経緯について伺います。このプロジェクトはPARTY(http://prty.jp/)の川村真司さん、清水幹太さんがディレクションされていますが、スタート時に川村さんから御社、それも3名(プロデューサー:富永勇亮、技術:Saqoosha、デザイン:森本友理)が指名されたそうですね。
富永勇亮(以下 勇亮):PARTYの川村さんとは、2010年にAsher Rothのプロモーションサイトを制作した時に、弊社からその3名が関わっていたんですね。ほかにも「映し鏡」(http://sour-mirror.jp/)にSaqooshaが関わっています。僕たちがどういうことができる会社なのか、特に3人のことを、PARTYサイドが知ってくれていたんです。
― 依頼があった際に、どのようにお感じになりましたか?
勇亮:最初、クリエイティブディレクターにあたる川村さんから、かなりテンションの高いメールが来たんですね。今でも忘れません、タイトルが「楽しいお仕事」(笑)。実際、仕事を引き受けると楽しいだけじゃなくて、苦しいことの連続なのだけど(笑)。朝7時に届いた、そのメールに添付されていたデモ曲を聴いて、こちらのテンションも一気にあがり、メールを返すと、すぐに(清水)幹太さんから返信が。その日のうちに打ち合わせをしました。
東京メンバー
― 依頼から納期までの、全体のスケジュールはいかがだったのでしょうか。
勇亮:最初の依頼メールをいただいたのが2011年6月21日で、公開が9月7日でした。他のプロジェクトと比べても例外的に短かったです(笑)。MVを放送局に納品する日がすでに確定していて、なにより新曲をリリースする日が決まっていましたから、すでに納期をずらすことが可能な状況ではありませんでした。
― 実際に、みなさんはどういったタイミングから参画することになりましたか。
プロデューサー 富永勇亮

プロデューサー 富永勇亮

勇亮:Bellの歌詞のなかに「言葉を届ける」「思いを伝える」といった詞が出てきます。これらのメッセージを伝えるMVにしたい。そしてFacebookやTwitterなどSNSで伝えやすいものにしたい。これには、「伝える」という行為の過程そのものをMVゲーム化したいというコンセプトがあったからです。このあたりまでが、川村さんの中で固まっていた状態から、僕たち3人が入ってスタートすることとなりました。僕たちに求められたのは、ある程度固まっている構想、企画を演出面でどう表現していくのか、手法を考えていくこと。それと実装面、技術的に実現可能かの二方向を徹底して検討し、実現していくことでした。

最初にスタッフ全員が共有できるイメージを確立

― 参画後に、まず何をやりましたか。
勇亮:制作するメンバー全員が共通して抱けるイメージ作りが、このMV作りでは根幹を形成しました。細部の調整は納期まで絶えず行っていましたが、大枠がかたまり、デザインと実装の作業を本格的にスタートさせるまでに、約1カ月はかかりました。当初は社内でみんなが缶詰になって、ガンガン意見をぶつけ合いながら、突破口を探していました。

コマ割でイメージを描く前段階として、「秒数」「リリック(歌詞)」「アイデア」という項目を作り、意見交換の叩き台を作成。精度を上げてストーリーボード化

― 話し合いのなかで、なにか参考にした先行事例はありましたか?
勇亮:いろんな、リファレンスが、メーリングリストで行き交っていましたが、代表的なのは、「NIKE Onwards」や「ビブリボン」ですね。ミュージックビデオゲームは、ゲームではあるけれど、ゲームオーバーにしてはいけない。なにせMVですから、最後まで曲を聴いてもらうことが目的の一つです。その点を参考にした事例でした。

手描き感のある世界にしよう

― 方向性の輪郭ができてきて、本格的に技術担当のSaqooshaさんやデザイン担当の森本さんは、何をやりはじめることになりましたか。
テクニカルディレクター Saqoosha

テクニカルディレクター Saqoosha

androp ロゴ

androp ロゴ

Saqoosha:andropのロゴが手描き感のあるものなので、この手描き感をBellでも取り入れることに決めました。まず手描き感のある文字を制作する方法として、同じく手描き感ベースの表現で制作していた、Asher Rothのサイト制作時に使った3D手法でやってみたんです。そうしたら、重すぎてゲームにするのは無理だとわかり、文字は2Dにして再トライすることにしたわけです。

森本友理(以下 森本):初期は思うがまま、自由に描いていました。ただ「androp」のロゴが手描きタッチだったので、手描き感を活かした世界観にしたいとは思っていました。それとビブリボンをはじめとした、話し合いの中で参考にしてきた先行事例のイメージ、雰囲気が色濃いものを描いていました。最初はゲームの主人公となるキャラクターを動物だと定めていなかったので、キャラクターを人で描いていましたね。
初期から中期に起こされた、Bellのデザインラフの変遷。任意のメッセージがキャラクターに変わるという構想が固まる前で、線画調だったり手描きタッチの試案を作りつづけていた

初期から中期に起こされた、Bellのデザインラフの変遷。任意のメッセージがキャラクターに変わるという構想が固まる前で、線画調だったり手描きタッチの試案を作りつづけていた

デザイナー 森本友理

デザイナー 森本友理

森本:ラフをみんなに繰り返し見せていきながら、「描く世界にルールが欲しい」という指摘を受け出したんです。

勇亮:インタラクティブMVとしてきちんと成立するために、より広く、普遍的に受け入れられるタッチにすべきではないか。ユーザーの立場から、描かれる世界が入り込んでくるようなタッチにしたいと感じたわけです。

森本:"ルール"を意識して描きなおすことで、徐々に世界観が定まりはじめてきました。その頃には、入力した文字がキャラクターになる案が固まり出したので、次に文字でキャラクターを表現できるのかという整合性を気にするようにしました。例えば文字「A」がキャラクターとしてどのようにはめ込まれるのか。文字をキャラクターに組み込む場合、文字がぐしゃっとつぶれたような変形になると、表現としては逃げていないか。技術的にできることとできないことをSaqooshaに確認しながら、表現として最上のラインを模索していったんです。
キャラクターイメージ案

キャラクターイメージ案

勇亮:「理想を掲げる→絵に描く、表現してみる→技術的に可能かを検証する」という工程を繰り返しました。タイポグラフィから生み出される造形物の参考をいろいろ出してもらいながら文字そのものより、文字で作られたことがわかりながら全体の造形がキャラクターとして成立する方向性が見えてきました。

森本:そうした積み重ねから、キャラクターは人ではなく動物のほうが多くのユーザーが受け入れやすい、と。以上を踏まえて描いたデザインラフは、かなり完成に近い世界観になっていると思います。
キャラクターを動物と決められてから出したイメージ案。ほぼ完成に近い状態に

キャラクターを動物と決められてから出したイメージ案。ほぼ完成に近い状態に

フローのための専用ツールを開発

― ここまでの段階で、スタートから約1カ月強が経過しています。すでに8月に入っていますね。
勇亮:デザイン案を見ながら「目指していた新しい作品を生み出せそうだ」という機運がどんどん高まり出していた時期でもありました。この段階で、今度は全員が動いている状態でのイメージを共有するために、ビデオコンテ(Vコン)を作ることにしました。
Vコン

Vコン

ストーリーボード(川村さん作)

ストーリーボード(川村さん作)

デザイナー 伊藤太一

デザイナー 伊藤太一

森本:私はストーリーボードの連番にあわせて静止画を描いていきました。デザインについては世界観をほぼ決められていたので、あとは登場シーンにあわせたパーツ(キャラクターや風景)を数多く描き起こす必要がありました。この頃から、一人だと間に合わないことがわかってきたので、もう一人パートナーとして、伊藤太一に加わってもらいました。

Saqoosha:僕はステージ上の絵について、どう実際のゲームの背景にしていくかを考えなければなりません。選択肢として、背景を静止画にしてスクロールさせるか、動画にするか、Flashアニメーションにするか。静止画だと世界観の再現性がとても貧弱になるし、動画ではデータが重くなり過ぎる。かといってFlashだと森本のデザインした手描き感の再現が困難。どれも一長一短で悩んでいるなかで、Mayaで作成した絵をSVGで書き出して、Flash上で手描き感を付け加えながら再構成するという手法を思いつきました。そこで実験してみると(http://www.aid-dcc.com/casestudy/androp_bell/sample/)「これならいけそうだ」と手応えをつかみました。ここで3D担当として山本文に入ってもらいます。
大阪メンバー
3D、モーションデザイナー 山本文

3D、モーションデザイナー 山本文

山本:ここから納品まで、ずっとSaqooshaとの共同作業でした。私の担当は、3D上でのデータ化を試みることです。作業上での要望をSaqooshaに出して、Saqooshaが試作とともに即要望に応えるので、立ち止まらずに3D化の作業に没頭していました。

Saqoosha:制作当初は複雑な絵があまりなかったので、データ量は想定できる範囲内でした。ただ後半になるにつれて絵が複雑になり、データ量が増えてきました。当然、描画負荷が高くなり、ロードも遅くなります。そこで不要なデータを省いてサイズを小さくするツールを作って、データ量がおさまるようにしました。
Maya → 専用コンバータを開発 → Flash

Maya → 専用コンバータを開発 → Flash

― つまり制作を円滑にするために専用のツールを開発した、と?
Saqoosha:専用ツールを作らないと、工程が先に動かないですからね。すでに8月に入っていますし、全体を前に効率的に進めるために必要なことでした。
― この専用ツールは、どれほどの期間で作るものですか。
Saqoosha:約1日です。早く開発しないとみんなが遅れてしまうので、即判断して、極力早く作ります。後で触れることになりますが、専用ツールはこの工程以外でも、各場面で開発することになりました。
ほかにも、入力した文字が動物の形へと組み込まれていく過程を検証する作業のために、専用のツールを開発した

ほかにも、入力した文字が動物の形へと組み込まれていく過程を検証する作業のために、専用のツールを開発した
実際のデモ ※要 Flash Player

後編「各工程で専用ツールを開発し、難所を克服する」を読む

遠藤義浩

編集者。月刊誌『Web Designing』(マイナビ)など、主にWeb関連をテーマに扱う媒体で編集を務める。