Feb. 21, 2013

制作者インタビュー「祇園つじりグループ・ブランディングプロジェクト」

ロゴからパッケージ、紙袋、Webまで。
ブランド再構築がもたらした成果

創業150年以上を誇る「祇園つじりグループ」が製造、販売するお茶「祇園辻利」と喫茶「茶寮都路里」のブランディングおよびプロモーション施策を手がけたプロジェクト。ロゴやパッケージ、紙袋、Webなど、「祇園つじりブランド」のリブランディング構築によって、いかなる成果を引き出したのか。制作陣に話を聞いた。

http://www.giontsujiri.co.jp/

取材・文:遠藤義浩

gion_tsujiri

認知度4割が持つ潜在性を「ブランド力強化」につなげる

―この祇園つじりのリブランディング・プロジェクトでは、かなり広範に渡って貴社が関わったと伺いました。Web制作会社という印象の強いAID-DCC Inc.ですが、そのイメージを覆すような特異な関わり方ですね。
富永ユキヒロ(以下ユキヒロ):プロジェクトに関わるきっかけは、2008年のことでした。当時、祇園つじりグループの社長が本社ビルの立て替え工事に着手されていて、2011年4月のリニューアルオープンに向けて、私の知り合いの空間デザイナーがビル建築と店舗内装を担当していました。その店舗リニューアルを機にブランド力の強化を図りたいという先方の社長の意向もあって、相談相手として私が一度話を伺うことになったのです。そこで、商品デザインなどにいろいろと改善の余地があることを知りました。
羽土あかね(以下羽土):例えば、使われているロゴが商品ごとに違うなど、当時の先方はまだVI(ビジュアル・アイデンティティ)へのご理解があいまいでした。
総合プロデュースで関わったプロデューサーの富永ユキヒロ(右)と、デザイナーの森本友理(左)

総合プロデュースで関わったプロデューサーの富永ユキヒロ(右)と、デザイナーの森本友理(左)

―当初はあくまでロゴデザインを手がけるという関わり方だったということですね。
ユキヒロ:まずはロゴをちゃんと改めましょうと提案し、VIから整理していきました。そのご縁で、もっと他にもお手伝いができないかと考えたわけです。
筆で描かれていた元のロゴは、何度も印刷で使いまわしていくなかで原型がなくなっていた。まずは原型を失いつつあるロゴをトレースし、再整理を図り、散らばっていたロゴイメージを統一した

筆で描かれていた元のロゴは、何度も印刷で使いまわしていくなかで原型がなくなっていた。まずは原型を失いつつあるロゴをトレースし、再整理を図り、散らばっていたロゴイメージを統一した

ユキヒロ:当時祇園つじりグループではマーケティング施策を行っていなかったため、次のアクションとして顧客調査に乗り出しました。弊社でアンケートの叩き台を作り、野村総研の協力を得て調査をすると、全国で「祇園辻利」の認知度が約40%もあることがわかったんです。40%もあるなら、ロゴだけでなく、パッケージ変更を柱として全体のイメージ刷新を図り、ブランドとして確立することをご提案しました。クライアントからの第一の希望は、祇園つじりグループが形成する「祇園辻利」というお茶のブランドと「茶寮都路里」という喫茶店舗が、同じ会社の運営であると広く認識されることでした。トータルのブランド確立のための一歩として、パッケージデザインに取りかかりました。

“エコを実現したパッケージに変えたい”

プロデューサー 富永ユキヒロ

プロデューサー 富永ユキヒロ

ユキヒロ:過去のパッケージは、包材のサイズがまちまちで合理化されていませんでした。例えば、お茶ごとにサイズがばらばらなので、贈答用の箱に数種類の商品を収めるには、たくさんの緩衝材で隙間を埋める必要がありました。

羽土:新商品が展開されるたびにさまざまな包材を作っていたため、コストもかさんでいる状況でした。そのため、リデザインによってコスト面も含めた合理化を目指しました。
ユキヒロ:まず、サイズの統一については、茶葉の内容量を変更してもらいました。これまで50gと100gという内容量だったのを、48gと96gの2種類に変えたんです。これはお茶のさじ1杯が4gに相当することから、その倍数に設定しています。
―商品構成の根本から提案されたわけですね。
羽土:さらに、茶葉を入れるアルミニウムの蒸着袋についても、これまで使用していた既製品ではなく、オーダーメイドで対応することを目指しました。
ユキヒロ:先方からは“エコでシンプルにしたい”という強いご要望がありました。例えば、茶缶は茶葉を湿らせない目的で使われ、同時にブランド感を演出する役割も果たしますが、かといって多くの茶缶が捨てられてしまうならエコではないですよね。
―では、蒸着袋もオーダーメイドにした意図は何だったのでしょうか。
ユキヒロ:先方との意見交換を重ねながら合理化を考えたときに、立方体のパッケージがもっともしっくりきそうだ、となりました。そのためには、アルミニウムの蒸着袋が立方体になれば都合がいい。結局、半年かけて試行錯誤しました(笑)。お茶は食品ですから、素材も慎重に精査する必要がありますし、茶葉を詰める時間なども考えなければならないので、単純に変えられない難しさがあったんです。
羽土:既製品の蒸着袋は直方体になるので、パッケージの形状に無駄なく合わせることを思うとやはり断面が正方形に近い状態になるのが理想です。立方体に近いオーダーメイドの蒸着袋を作れる体制を整えるのに半年かかったんです。
ユキヒロ:蒸着袋を包む立方体は箱のように見えますが、一枚の紙を折り曲げてシールでとめるだけで作っています。
祇園辻利のパッケージ。一枚の紙を組み立てていくと立方体になる。四六判の用紙に印刷して、裁断で余る箇所を店舗で渡せる栞(しおり)として利用するなど、極力無駄を出さないよう配慮した。パッケージの裏は、おいしいお茶の淹れ方などが記された、イラスト付きの説明書になっている

祇園辻利のパッケージ。一枚の紙を組み立てていくと立方体になる。四六判の用紙に印刷して、裁断で余る箇所を店舗で渡せる栞(しおり)として利用するなど、極力無駄を出さないよう配慮した。パッケージの裏は、おいしいお茶の淹れ方などが記された、イラスト付きの説明書になっている

羽土:お茶の種類が約60種類、さらにサイズ別を含めると約200種類になります。これらのパッケージの規格を統一できれば、商品管理や詰め合わせをする場面で利便性が向上します。商品名はシールで判別できるという仕組みです。
―すべての製品がリニューアルされたのですか。
ユキヒロ:キログラム単位で扱う業務用の袋と、抹茶缶のみは従来の状態を残しました。特に抹茶は、茶道の先生方にもご贔屓にしていただいており、“デザイン一新=味が変わった”という誤解を与えたくはありませんでした。

祇園つじりブランドを確立するためのフォント開発

―紙パッケージのデザインについては、紙を折り曲げていくという形状以外に、どういった工夫がありますか?
ユキヒロ:パッケージやシールに印字されている文字は、すべて作字した「祇園つじりフォント」です。
祇園つじりフォントは、通常の明朝フォントよりも、たまりが大きくなっている。ブランド名にもある「祇園」の響きに紐づく和の雰囲気を意識して開発された

祇園つじりフォントは、通常の明朝フォントよりも、たまりが大きくなっている。ブランド名にもある「祇園」の響きに紐づく和の雰囲気を意識して開発された

ユキヒロ:作字については、京都、日本というイメージを具現化したいと考え、“たまり”を強調しています。このフォントを通して、祇園つじりのブランド感を構築したかったんです。そのほか、実際に祇園辻利の会長に書いてもらった筆文字も使っています。
―この案件では、外部のデザイナーとも協業していますよね。どういった役割分担で進めていったのでしょうか。
ユキヒロ:当時はまだ弊社だけでは紙のデザインができる人員が揃っていませんでした。弊社からは森本友理がデザインで入りながら、私が長年懇意にしている中野勢吾さんが在籍するアレックス・クリエイトと合同でやることにしました。アレックス・クリエイトからADで眞木克英さん、デザインで本田篤司さん、それに森本。パッケージ裏のイラストでは、イラストレーターの白根ゆたんぽさんにご協力いただきました。また紙の手配、印刷工程その他、包材の制作にあたっては、奥田セロファンの奥田恵理さんにもご尽力いただきました。
デザイナー 森本友理

デザイナー 森本友理

森本:当初から眞木さんと本田さんと一緒にモックなどを何度も作り続けて、最終的な完成を本田さんにお願いしました。他にお茶菓子のパッケージも手がけています。こちらは角が均一でない丸みを与えることで、日本的なアナログさを感じられるデザインを目指しました。
角にアナログ感のある丸みを与えた、お茶菓子のパッケージ例

角にアナログ感のある丸みを与えた、お茶菓子のパッケージ例

試行錯誤と粘りで実現できたこと

―パッケージのほかに、紙袋もデザインされていますね。
ユキヒロ:「祇園辻利」と「茶寮都路里」という2つの“つじり”を同居させるデザインを模索したいけれど、漢字表記では別物だと感じさせてしまう。そこで、アルファベット表記にしながら、わかりやすさとデザイン性を併せ持った紙袋を目指しています。
―金色が印象的な紙袋ですね。
ユキヒロ:刷り金に墨文字を乗せています。これまでの印刷技術では金に墨がはじかれてしまうため、印刷会社に「これはできない」と言われました。なんとか印刷所にお願いし続けて、インクの配合を変えてもらったところ、実現に成功したんです。2009年当時、印刷した金色に墨文字を乗せたのは祇園つじりの紙袋が初めての事例だと思います。職人業でした。
―そこまでして紙袋のベースを金色にした理由は何でしょうか。
ユキヒロ:リブランディングの一環として、お客様が持ち歩く紙袋に高級感をもたせて、周りから目立たせたかったんです。
―蒸着袋にしても、金色に墨文字を乗せた紙袋にしても、過去に例のなかったことに取り組んでいます。コストは抑えられたのでしょうか。
ユキヒロ:ある程度の数を生産できることで、ほぼコスト面の心配が出てこなかったんですね。パッケージ用の紙には、高級感のある「ディープマット」という種類を選びましたが、当時は在庫がほとんどなく、急いで買い占めたんです。ただ、ある程度の生産数が見込めることで、以後は製紙会社がディープマットを用意してくださることになって。
贈答用の箱

贈答用の箱

ユキヒロ:贈答用の箱まで作ったりと、やりすぎたところもあるかもしれません(笑)。ここまで入れ込んだのは、「祇園辻利」のお茶が日常で飲まれる存在にしたかったからです。修学旅行で京都にやってくる中高生でもお土産に買いやすいパッケージにしておく。「高級感を味わえて、なおかつ買いやすい」というブランド感が祇園つじりグループの推進力になると考えました。

2ブランドの共存を主軸にWebをリニューアル

―Webデザインのリニューアルについては、いかがでしょうか。
「祇園辻利」と「茶寮都路里」が持つ、それぞれのブランドカラーを基調に、2つのブランドサイト間での回遊がしやすいサイト構造になっている

「祇園辻利」と「茶寮都路里」が持つ、それぞれのブランドカラーを基調に、2つのブランドサイト間での回遊がしやすいサイト構造になっている

森本:「祇園辻利」と「茶寮都路里」の2つのブランドを2サイトで構成しつつ、それぞれをシームレスに行き来する作りにしました。例えば、喫茶のお店である「茶寮都路里」のサイトにはメニューと品目が出ていますが、このメニューに使われているお茶の箇所は「祇園辻利」のサイトのコンテンツにリンクされています。お茶のことを詳しく知っていただけるように「茶系図」を作るなど、可能な範囲でリニューアルをしました。
サイト内で使っている写真の数々。実際の茶畑がある京都山城にて

サイト内で使っている写真の数々。実際の茶畑がある京都山城にて

―紙袋とは違い、Webサイトでは各ブランドに設定されたキーカラー(濃緑とエンジ色)を活かしていますね。
森本:金色をベースにしたサイトデザインも検討しましたが、祇園つじりグループが2つのブランドから成り立っていると明示するには色分けすべきだと判断しました。ただ、両色ともそのまま使うと暗さが出てしまうので、サイトになじみやすく若干の色調整をしています。
祇園辻利店舗、祇園本店

祇園辻利店舗、祇園本店

―お話を伺ってきましたが、想像以上にさまざまな角度から全体のブランド構築に関わっていたのですね。
ユキヒロ:プロジェクトに当たって、祇園つじりグループの社長にはこれからの「祇園つじりブランド」を考えるための「企画室」を社内に設けていただいたんです。先方のみなさんと一緒になって社内から変えることで、プロジェクトを成功につなげたいと思ったからです。一連のリブランディングによって、新規顧客の開拓など、結果も出てきました。コンサルティングや社内啓発的な側面にも関わりながら、祇園つじりグループの社員のみなさんとともに強固なパートナーシップを築けた案件です。その結果として、総合的にブランドを高める施策へと発展しました。

遠藤義浩

編集者。月刊誌『Web Designing』(マイナビ)など、主にWeb関連をテーマに扱う媒体で編集を務める。