Oct. 6, 2014

制作者インタビュー「キリン『世界のKitchenから in Bottle 〜 Sparkling Water スペシャルコンテンツ 〜』」

ペットボトルの中にミニチュアで再現された世界
ブランドに込められたコンセプトを伝える手法とは?

「世界のお母さんの知恵」と「キリンのひと手間」というブランドコンセプトで発売中の人気飲料水、キリン「世界のKitchenから」シリーズ。このスペシャルコンテンツの第一弾(ソルティライチ)と第二弾(Sparkling Water)の制作全般に関わった。ここでは第二弾を中心に、「ミニチュアで再現した世界」を制作した真意に迫る。

取材・文:遠藤義浩

ペットボトルの中に「ミニチュアの世界」を再現した理由

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― プロジェクトがスタートした経緯について教えてください。
久後竜平(以下 久後):2013年9月にキリンビバレッジさまから、「世界のKitchenから」ブランドの理解促進を図るためにスペシャルコンテンツを用意したい、というリクエストをいただいたのがスタートです。そこから弊社が企画から制作、公開まで携わって、2014年4月に第一弾「キリン 世界のKitchenから in Bottle 〜ソルティライチスペシャルコンテンツ〜」、続いて第二弾である「キリン 世界のKitchenから in Bottle 〜 Sparkling Waterスペシャルコンテンツ 〜」というコンテンツを公開しています。
今回の制作に関わったメンバーたち。左から奥田正和(フォトディレクター)、Rahmat Hidayat(プログラマー)、イズカワタカノブ(サーバーサイドエンジニア)、高谷優偉(デザイナー)、北井貴之(3D、映像ディレクター)、久後竜平(プロデューサー)、森研治(プログラマー)、南陽子(プロデューサー)、板垣奈生子(ディレクター)

今回の制作に関わったメンバーたち。左から奥田正和(フォトディレクター)、Rahmat Hidayat(プログラマー)、イズカワタカノブ(サーバーサイドエンジニア)、高谷優偉(デザイナー)、北井貴之(3D、映像ディレクター)、久後竜平(プロデューサー)、森研治(プログラマー)、南陽子(プロデューサー)、板垣奈生子(ディレクター)

久後:「世界のKitchenから」ブランドの商品コンセプトが、“世界のお母さんの知恵にインスピレーションを受けながら、キリンスタッフがひと手間を加えることで商品が完成する”というものです。その「世界のKitchenから」ブランドの中でも、2013年夏にソルティライチが好評を博し、熱中症対策で塩分と水分の両方が効率よく摂取できる飲料水として、「世界のKitchenから」ブランドを知らないお客さまにもソルティライチが売れるようになりました。そこで、きちんとブランドコンセプトを伝えるコンテンツも用意しておきたいとなったわけです。
― 第二弾の話の前提として、第一弾や第二弾がスタートする以前の経緯を教えてください。
久後:当初から、企画の骨子は「500mlのペットボトルの中に、プロダクトの背景が伝わる世界をミニチュアで再現する」としていました。このことは2013年10月に行われたファーストプレゼンテーションの時から一貫しているプロジェクトの軸です。骨子の細部をブラッシュアップしながら、2014年4月の第一弾公開へと至ります。

「世界のKitchenから」ブランドをきちんと理解できるコンテンツにしつつ、ユーザーが興味を持ってファンになってくれるコンテンツを提供したかったのです。ブランド理解とファン獲得という両者を実現するために、僕たちは商品背景にあるストーリーに着目しました。このストーリーをうまくユーザーに伝えられれば、ブランドの理解につながるのではないか。ペットボトル=商品の中にブランドコンセプト(商品ごとの世界観)が詰め込まれているというアイデアを着想し、さらにストップモーションアニメーションとして提供できれば表現の面白さが加わり、ユーザーの関心を喚起できると判断しました。

第二弾のスタートとミニチュア化する世界観について

― ここからは、本格的に第二弾についてうかがっていきます。第二弾はどういうフェーズを経て生まれたのでしょうか。
久後:各工程のおおよそを順序ごとに挙げると、企画→デザイン制作(プロジェクト全体)→ミニチュア制作→撮影→編集→サイト構築(コーディング)→公開です。第二弾の企画のスタートは2014年3月でした。第一弾の公開が4月ですので、第一弾が公開する前に第二弾がすでに走り始めていました。

第二弾は、6月17日にプロダクトが新発売されることが確定していましたので、そこにあわせてスペシャルコンテンツを公開しなければなりません。となると、3月時点で企画をスタートさせて少しでも早くミニチュア制作に取りかからないと間に合わなかったのです。第一弾完成前とはいえ、ミニチュア表現にクライアントが手応えを感じていただけていたのも大きかったですね。
― 第二弾の企画の立ち上げからミニチュア制作に至るまでに、どのような準備や手配を行ってきたのでしょうか。
久後:2014年3月にクライアントのご担当者が、第二弾のプロダクトの舞台となるモロッコ中央部にある都市、マラケシュに取材に行く予定でしたので、あらかじめ素材となる動画や静止画データを豊富におさえていただくお願いをしました。例えば、メインのキッチンや周辺の雰囲気、ほかにも屋内外の様子、街並の雰囲気などです。ドアノブがどうなっているか、屋内の壁面はどんな感じか、どういったタイルを使っているかなどの細部についても、再現性を高める材料として取材のリクエストをしました。
北井貴之(以下 北井):モロッコのマラケシュはGoogle ストリートビューを見ても対応していない地域でしたし、自分たちで参考資料を調達したり、事前に想像力を働かせるにも限界がありました。素材に直結する取材時のデータ全般が企画の正否を握る大きなウェイトの一部を占めていました。
企画書に基づき用意したデザインカンプやリファレンス資料。素材データを元に具体的な場面が想像できるものを作り、ミニチュア世界の土台となる参考データとなった

企画書に基づき用意したデザインカンプやリファレンス資料。
素材データを元に具体的な場面が想像できるものを作り、ミニチュア世界の土台となる参考データとなった

高谷優偉(以下 高谷):久後が中心となって素材検証を行いながら企画書を制作し、私が企画書に基づき、取材班の素材データを参考にデザインカンプやリファレンス資料を作りました。これらをまず関係者全体で共有して、早い段階から具体的なイメージも共有できるようにしました。

こうしたプロセスから必要となるミニチュア世界の検討を行った結果、第二弾では、Webサイトのトップページに登場しているメインキッチンと、5つのコンテンツ(「Sparkling Waterものがたり」)、キリンスタッフの取材の様子をミニチュアで再現したプロモーションビデオ(PV「ちいさなKitchenのムービー」)を制作することにしました。
― ミニチュア制作では、どういった難しさがあったのでしょうか。
久後:僕たちも携わって初めて知りましたが、ミニチュアは通常12分の1サイズで作ることが多いそうです。ですが、僕たちがオーダーしたサイズが第一弾では48分の1サイズ、第二弾では48分の1サイズに加えて、150分の1サイズや35分の1サイズもありました。通常よりも緻密さが求められて、さらに第二弾は縮尺にバリエーションが存在しました。定番のサイズでないため、ミニチュア制作でご協力いただいた職人さんからは「スケジュールが読めない」と釘を刺されていました。第二弾は、第一弾の経験があったので、なんとか6月公開に間に合うように取りかかっていただきました。

ペットボトル内に収まるサイズと事実を忠実に再現することは曲げたくありませんでした。「世界のKitchenから」ブランドにかけるクライアントの熱意を知れば知るほど、それによって支えられているブランド観の表現に妥協したくなかったからです。
モロッコの取材風景などをベースにして作られたPV「ちいさなKitchenのムービー」より

モロッコの取材風景などをベースにして作られたPV「ちいさなKitchenのムービー」より

一つひとつ作り込まれた、規格外サイズのミニチュアたち

左「:マラケシュレッドと呼ばれるやさしいピンクの建物をはじめ、カラフルなマラケシュの街並を150分の1サイズのミニチュアで再現 右:野菜やハーブを育てているというハディージャお母さんのキッチンまわり。かまどの中の炎はLEDを使って再現

左「:マラケシュレッドと呼ばれるやさしいピンクの建物をはじめ、カラフルなマラケシュの街並を150分の1サイズのミニチュアで再現
右:野菜やハーブを育てているというハディージャお母さんのキッチンまわり。かまどの中の炎はLEDを使って再現

― 第一弾と第二弾とでは、ペットボトル内の表現で違いがありますか?
久後:第二弾では、各場面でフィギュアの動作パターンを平均6ポーズ用意して、より動きが感じられる仕上がりにしています。第一弾ではフィギュアの動作パターンを2ポーズに絞っていたので、動的な絵を提供しきれていませんでした。ユーザーにより興味を持ってコンテンツを体感いただくには、視線が集中する人物(フィギュア)に動きを与えることが欠かせませんでした。
板垣奈生子:5つのストーリーとムービー、その他サイト全体で200体以上のフィギュアが必要でしたので、フィギュアは3Dプリンター(MakerBot Replicator 2)で出力しました。出力後にバリを取って、出力される際にどうしても出てしまう積層感がなくなるまで数種類のヤスリで削って形を整えるところまでを弊社で行ってから、ミニチュアの職人さんに色づけなどの加工をお願いしました。とてもスケールの小さいサイズの出力だったので、想定通りに出力できない場合があったり、順調に出力できても出力だけで1体で約20分かかるので、マシンと時間との格闘をしながら効率的な手配が必須でした。
第二弾では、上のように1つのアニメーションに平均6ポーズのフィギュアを用意して撮影。より動的な世界観が表現されることに

第二弾では、上のように1つのアニメーションに平均6ポーズのフィギュアを用意して撮影。より動的な世界観が表現されることに

高谷:例えば、キッチンで実際に炎を使っている場面を再現したい場合、炎や煙を出す演出をあわせて用意しなければなりません。その演出に対応できるミニチュアを作り、炎用にLEDを仕込む必要があります。現場では、ストップモーションアニメーションに長けた外部スタッフ、アニメーターの方々の力を借りていますが、僕たちもLEDを用いた試作を作ってみたりして、最善の表現について追求していきました。
久後:ですので、ミニチュア完成は企画から制作までで2カ月半近くかかったことになりますね。

撮影や編集、サイト構築について

― 撮影はどういった体制で臨まれたのですか。
久後:職人さんが仕上げたミニチュアで撮影できる場面から次々と進めていきました。6月に4日間連続で撮りました。陣容として、弊社がプランニングやディレクションの立場で、撮影コーディネートにアマナさんのご協力を得たほか、ミニチュア制作の職人さんとアニメーターさんにも加わっていただきました。
ペットボトル内の動きの目安となるプレビズを制作し確認できるようにして、現場でアニメーターが最適にフィギュアを動かしやすくしていた

ペットボトル内の動きの目安となるプレビズを制作し確認できるようにして、現場でアニメーターが最適にフィギュアを動かしやすくしていた

北井:ペットボトル内でどのように再現すればいいかを3DCGで仮に作っておきました。そのプレビス(プレビジュアライゼーション)でフィギュアの動きを確認しながら、アニメーターさんに動かしてもらうようにしました。
久後:ミニチュアは粘りに粘って、ギリギリまで時間をかけて作っていただいたので、撮影前日や直前まで本物を確認できませんでした。撮影後は編集やコーディングが控えて、かつ新発売日は動かせない。後ろの日程に食い込まないように、アマナさんのご協力を得ながらやり切るようにしました。結果、撮影4日間のうち総コマ数で約600コマを超える撮影をしました。

この4日間だけではPVまで作ることはできず、PVだけは弊社の大阪チームが撮影担当のtriplet studio inc.さんのスタジオで制作しました。PVのコマ数が250コマ弱だったので、第二弾の総合計は約850コマという大規模な撮影となりました。
北井:現場では、ちょっとした震動で何かの配置やライティングがずれると、ミニチュアの世界ではものすごく大きな誤差となります。例えば、40コマ中24コマ目でトラブルがあった際に、今までを捨てて最初から撮り直せるか、そうすべきなのか。スケジュール厳守とともに、現場では品質重視でシビアに判断しながら進めました。
― 4日間の撮影を経て、いよいよ素材の編集やコーディングに移行していきます。
森研治(以下 森):撮影やレタッチ後、公開日までの残り時間が少ない状況で、撮影データの容量を整理しながら、すべての素材を揃えてリファインして、テストアップまでを約1週間で強行しました(笑)。
久後:使用画像の枚数が膨大ですので、そのまま使えば重すぎて見られません。かといって、単純な圧縮では細部にわたってせっかく作り込んだミニチュアが粗く見えてしまう。森には、データの読み込みタイミングや最適化などで工夫を凝らしてもらい、スムーズかつ軽量に見られる調整をお願いしました。
Flashを利用して開発したモーションの調整画面と最適化して書き出された画像

Flashを利用して開発したモーションの調整画面と最適化して書き出された画像

森:コーディング作業前の時間で、できる限りの事前準備を行っておきました。どれほどのサイズだと閲覧に耐えるかを精査しつつ、このプロジェクト用に最適化した素材(画像やアニメーションデータ)をFlashから生成できる仕組みを構築しておき、画像の処理が極力簡単にできる準備をしていました。

また、今回のアニメーションは効果音、サウンドエフェクトを細かく入れています。ユーザーが操作していて気持ちよく感じる音やタイミングについては、社内のメンバーが私のモニタまわりに集まってきて、多くの意見をぶつけてくれました。ひたすら公開直前まで微調整を続けましたね。

さまざまなエフェクトや制御もかけているので、思わぬところでのバグやトラブルも出てきました。スマートフォンにも対応したことで、特定のスマートフォンだけに起きるバグなどが公開直前に見つかることもありましたが、プログラム中で使用していたフレームワークを修正し、公開に間に合わせることができました。

完成を踏まえた総括

―全体を通して、クライアントやユーザーからはどういった反応がありましたか。最後に公開と完成を通しての総括をお願いします。
久後:ミニチュアサイズがイレギュラーだったため、常にスケジュールが読みづらく、チーム全体が時間に追われながら暗中模索の日々を送っていました。ですが、クライアントにも大変喜んでいただき、実際に制作したミニチュアはキリンビバレッジさまの社内受付にすべて飾っていただいています。おかげさまで、インターネット界隈からオーガニックに入ってくるユーザーの声も、好意的な反応が多く、とても報われる思いですね。

今回はデジタル施策ながら、アナログ感のいいところを取り入れられた仕上がりを実現できました。今後もこのスペシャルコンテンツが、さまざまなユーザーに波及して、「世界のKitchenから」ブランド理解の一助につながり続けてくれたらと願っています。

遠藤義浩

編集者。月刊誌『Web Designing』(マイナビ)など、主にWeb関連をテーマに扱う媒体で編集を務める。

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