Mar. 13, 2013

制作者インタビュー「FUN FORCE | ZIMA PARTY SHUTTLE」

Web制作会社が実現した、
シャトルバスを使ったアトラクション空間

2012年7月13日から9月22日にかけて行われた、アルコール飲料「ZIMA」のプロモーション施策。渋谷と六本木をつなぐバス「ZIMA PARTY SHUTTLE」の乗客と、Web上のユーザーとが一体になって体験できる空間全体を開発。Web制作の領域を超えたアトラクション開発の経緯に迫る。

取材・文:遠藤義浩

Part1.「退屈な移動時間をFUNな空間に。ZIMA PARTY SHUTTLEが生まれたわけ。」

Part2.「移動中のバスの中で、インタラクティブと生中継を実現した舞台裏」

Part1.「退屈な移動時間をFUNな空間に。ZIMA PARTY SHUTTLEが生まれたわけ。」

「FUN FORCE」を実現するためのプロジェクトがスタート

zima

2012年7月から9月までの間、毎週金曜日と土曜日に渋谷〜六本木間を走行したバス「ZIMA PARTY SHUTTLE」

― このプロジェクトでは、バス車内の空間演出やUstreamによる映像中継など、さまざまなアプローチが試みられています。Web制作会社でもある貴社が、この案件の演出や技術開発の中核を担ったのはとてもユニークですね。
富永勇亮(以下 勇亮):案件の枠組み、世界観については、当初から博報堂の野添剛士さんや日野貴行さんたちが中心になって、大まかな構想をお持ちでした。僕たちは、そこから実現に向けて、具体的な演出企画やコンテンツ制作、技術開発に関わりました。過去にZIMAのプロジェクトとして、野添さんたちは店頭販売用のユニークなノベルティを作ったこともあります。企画性の高い試みに理解のあるクライアントなんです。このプロジェクトでは、さらに中長期的な観点のブランディングをしたいという要望を受けてのスタートでした。
― どのようなオリエンテーションを代理店から受けましたか?
勇亮:中長期的なコミュニケーション戦略として、ZIMAのブランドスローガンがいくつか提案されており、その中から「FUN FORCE」という言葉がタグラインとして選ばれていました。これは、つまらないものや日常をどんどん楽しくする力という意味です。この言葉を体現するアクティベーションとして、「身近な交通手段をプレイスポットに」したいというコンセプトを最初に伺いました。
今回の制作に関わった、左前から田中陽(デベロッパー)、森研治(テクニカルディレクター)、Saqoosha(テクニカルディレクター)、伊藤太一(デザイナー)、谷口恭介(クリエイティブディレクター)、久後竜平(プランナー)、富永勇亮(プランナー)、山中雄介(プロジェクトマネージャー)、イズカワタカノブ(システムエンジニア)

今回の制作に関わった、前列左から田中陽(デベロッパー)、森研治(テクニカルディレクター)、Saqoosha(テクニカルディレクター)、伊藤太一(デザイナー)、谷口恭介(クリエイティブディレクター)、久後竜平(プランナー)、後列左から富永勇亮(プランナー)、山中雄介(プロジェクトマネージャー)、イズカワタカノブ(システムエンジニア)

ZIMAとともに「楽しみながら移動できる空間」を提供したい

― ここからは規模が大きいプロジェクトですので、「1.バスを使ったプロジェクトとなる経緯、概要について」「2.バスの中で実際に楽しめること、演出上のルールについて」「3.ZIMAに取り付けるボトルホルダーについて」、以上の3点から先に伺います。
プランナー 富永勇亮

プランナー 富永勇亮

勇亮:まず1について。ZIMAを、夜遊びシーンで飲んでもらう機会をつくるためには、クラブやナイトスポットが集中する渋谷や六本木でクラブカルチャーを巻き込んだ展開をすることが必要でした。東京の公共交通機関の利用率は世界でトップクラスですが、普通のバス内の広告はなかなか見てもらえません。そこで、ZIMAが飲める「踊れる公共バス」を運行させることができれば、話題化するのではないかというアイデアが、野添さんや日野さんたちの中で生まれました。バスの中では、DJブースがあってZIMAを飲みながら、セクシーなZIMA GIRLと30分程の移動を楽しむことができる。この野添さんたちのコンセプトに対して、具対的に乗客を楽しませる手段を考えるところから僕たちの仕事が始まりました。

渋谷〜六本木間を走行するバス、バス車内の様子

クリエイティブディレクター 谷口恭介

クリエイティブディレクター 谷口恭介

谷口恭介(以下 谷口):バスに乗車できる参加者は、Webで応募してもらった方々の中から抽選で選んだのですが、毎便の定員が19名と人数が限られています。そこで、バスの中での体験をオンラインでも見られるように、生中継してユーザー参加型、インタラクティブにして、単なるイベントだけで終わらず拡散要因も持ち合わせることを目指しました。
― かなり壮大な計画ですね。スケジュールはいかがだったのですか。
勇亮:2011年12月に話を伺って、年明けから具体的に動いて、2012年7月最初の運行に合わせました。スケール感のある企画ですので、「大変なことになるな」「ヤバイ」と(笑)。バスの中の空間演出、盛り上がるためのフィージビリティ(実現可能性)の検証をどうすべきか。例えば有機LEDを使った演出になるか、などのざっとした予想をまず思い浮かべました。早速、候補となるバスを見に行くと、天井が約1m75cmで、とても低かったんですね。それに天井が中央部分から端にかけて湾曲している箇所があり、もちろん座席もある。

バス車内の様子。進行方向を背にして、先頭部分にDJブースを設置。両サイドに乗客の座席が用意されている

勇亮:予算を考えると、有機LEDだと予算を超えてしまいそうなので、プロジェクターで投影することでどこまでの演出が可能になるかを探ることにしました。以前イベントでSaqooshaがご一緒した日立製作所のエンジニアの方に相談してプロジェクターを借りて、バスの中で何がどのようにできるのか、どれほどの間隔で何台のプロジェクターを置くべきかなどを詰めていったんです。
デベロッパー 田中陽

デベロッパー 田中陽

本体からスクリーンまでの距離、わずか約23cmで80型大画面を投写可能なCP-A300NJ(日立製作所)

本体からスクリーンまでの距離、わずか約23cmで80型大画面を投写可能なCP-A300NJ(日立製作所)

田中陽(以下 田中):バス車内が狭いので、通常のプロジェクターとは方式の異なる、鏡に映して投影させるプロジェクターを用いました(日立製作所が開発している、「超短投写」と呼ばれる仕様のプロジェクター)。これで奥行き、距離がなくても斜めに映して距離が稼げるので、投射できるようになりました。

勇亮:あとはひたすらフィージビリティの検証を集中して行っていきました。具体的なコンテンツを提供し、方法論を確立することが、弊社が担った使命でしたので、バス車内での演出の可能性と中継することの可能性、DJと乗客とが何をして楽しめるか、オンラインユーザーも巻き込める空間を提供できるかなどの可能性について、順次解決していきました。

「バスの中でできる楽しさ」に輪郭を与えていく

― では続いて、「2.バスの中で実際に楽しめること、演出上のルールについて」はいかがだったのでしょうか。主に移動中のバスを通して提供されたことの全体像について伺いたいです。
谷口:僕の役目は、クリエイティブディレクターという立場で全体像の構築に関わっています。まずは車内での体験について、制作に関わるメンバー全員が共有できる方向性を具体化していく作業から始めて、移動時間の約30分の体験で参加者全員が楽しめる具体的な演出プランを固めていきました。乗客は、乗車するとZIMAを渡されます。プロモーションとしてZIMAを通じて乗客、DJ、音楽、特設サイトのUstream中継から参加するWeb上のユーザー。どれもすべてが一体となれる空間にするために、ZIMAに専用のボトルホルダーを装着して、ZIMAを振ると、プロジェクター経由でバス内に「FORCE」と呼ばれる乗客の分身の役割をするオブジェクトが投射される、という表現を考えました。
実際に使われたボトルホルダーやボトルホルダーを振ったときのバス内の様子

実際に使われたボトルホルダーやボトルホルダーを振ったときのバス内の様子

谷口:同時に、中継にログインしたユーザーのTwitterアイコンを車内に投影して、リアルに乗車している参加者とオンラインで視聴しているユーザーが一つのバスに乗っているような空間ができればと思いました。ZIMAをインターフェイスにして、バス車内の演出が連動して変化しつつ、Web上では投影されるアイコンの様子も中継されて同時性を担保するというプランです。クライアントも、リアルの参加者とWeb上のユーザーとが一体となれる空間を重視していました。当初はボトルホルダーを使ったリズムゲームのようなこと、『beatmania』のようなゲームも考えましたが、ゲーム要素に凝るとDJの存在がサブになってしまう。あくまでメインの存在はDJと音楽であるという原点も忘れずに、VJ演出のインタラクティブ性、エンターテインメント性を追求していきました。
バス内に照射されたFORCEなど、VJ演出の状態より。左は待機中の画面で、右は進行中の画面

バス内に照射されたFORCEなど、VJ演出の状態より。左は待機中の画面で、右は進行中の画面

― 「FORCE」についての説明もお願いできますか。
谷口:「FORCE」とは、乗客一人ひとりに割り当てられたボトルホルダーに反応して、乗客の後ろに出現する、いわば「分身」のような存在です。道路交通法の問題で乗客は移動中着席していなければなりません。着席しながらもクラブのように踊れる表現として、考え出したものです。乗客たちは、「DRINK」「HANDS UP」「SHAKE」「CHEERS」というボトルアクションをすると、そのタイミングに合わせて「FORCE」が育っていきます。アクションを繰り返して「FORCE」を大きくしていくと、オリジナルな形状や動きが出現するようにしていて、乗客のテンションを可視化する意味を込めています(※「FORCE」のデザイン、細かな動きのルール、イベント最後に用意された全方位カメラを使った撮影については、後編に詳述)。

乗客の動きに連動するボトルホルダーというデバイスの開発

― 次に「3.ZIMAに取り付けるボトルホルダーについて」です。イベント中の乗客のテンションを左右する、大事な要素の一つですよね。
テクニカルディレクター 森研治

テクニカルディレクター 森研治

森研治(以下 森):僕はデバイス開発や車内の演出を中心に関わりましたが、ホルダー開発だけに限らず、このプロジェクトは検証の連続でした。失敗が許されないので、開発した基盤が的確に機能するかを、入念に動作検証を繰り返しました。ホルダーについては、初期のボトルを使ったリズムゲームというアイデアが出た段階から、並行して検証を進めはじめていました。初期のモックから通信を行えるものを開発したんです。
ボトルホルダーは万が一に備えて、バスの定員数の19名より多い、50個分の開発が行われた

ボトルホルダーは万が一に備えて、バスの定員数の19名より多い、50個分の開発が行われた

森:開発工程では、乗客の様々なジェスチャーに対応するため感圧センサーなどいくつかのセンサーを検証しましたが、手に持てる軽くて消費電力の少ない物を作る必要があり、最終的に携帯などに搭載される加速度センサーに絞り進めました。また、「加速度センサー+無線通信」という組み合わせで、どれほどのジェスチャーを取得できるのか。きちんと動きの取得が可能になるまでフィードバックを繰り返し、精度を詰めていきました。ある程度フィージビリティのチェックができた段階で、基盤を専門に作る長谷川技術開発にも協力を仰いで、ZIMA専用ボトルホルダーの完成にこぎつけました。広告、プロモーション案件の場合は、最後の最後まで企画の方向性が定まらないことがあるため、ギリギリまで仕様が決めがたい状況になりがちです。今回もよりよい方向性を目指して、仕様の確定がギリギリまで出せませんでしたが、そうした事情を汲んでくれる、フレキシブルに対応できるところと組めたのも、完成できた要因です。
専用ホルダーの仕組みを説明した簡略図。ボトルホルダーにセンサーをつけて信号を送信できるようにすることで、乗客の振りの動きに連動した専用ホルダーを実現した

専用ホルダーの仕組みを説明した簡略図。ボトルホルダーにセンサーをつけて信号を送信できるようにすることで、乗客の振りの動きに連動した専用ホルダーを実現した

― 後半では、引き続きバス車内での演出面について(VJ演出、「FORCE」のデザイン性や動きに関するルール、降車直前で活躍する全方位カメラ、プロジェクターの調整作業)とWebサイトの設計・実装について、お話を伺っていきます。

Part2.「移動中のバスの中で、インタラクティブと生中継を実現した舞台裏」

遠藤義浩

編集者。月刊誌『Web Designing』(マイナビ)など、主にWeb関連をテーマに扱う媒体で編集を務める。

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